はじめに：「被リンクの時代」の次に来るもの
長年、SEOの世界では「被リンク（バックリンク）」が、サイトの権威性を測るための絶対的な指標として君臨してきました。どれだけ多くの、そして質の高いサイトからリンクされているか。それが、検索順位を左右する大きな要因であったことは、多くのWeb担当者が知る事実です。
しかし、AIがWeb上の情報を人間のように「解釈」し、「文脈」で理解するようになった今、その前提は大きく変わろうとしています。リンクという直接的な繋がりだけでなく、Web上で「どのように語られているか」が、新たな権威性の指標として重要性を増しているのです。
この記事では、その新しい概念である「サイテーション（言及）」とは何か、なぜそれがAI時代の新しい被リンク戦略と言えるのか、そして自社のブランドや専門性がAIに正しく評価されるための、戦略的なサイテーションの増やし方までを、徹底的に解説していきます。
サイテーションとは何か？「リンクなき言及」の重要性
サイテーション（Citation）とは、直訳すれば「引用」や「言及」を意味します。Webマーケティングの文脈においては、他のWebサイトやSNS、ニュース記事などで、あなたの会社名、ブランド名、サイト名、あるいは著者名が、ハイパーリンクがなくてもテキストとして記載されることを指します。
具体的には、以下のようなものが全てサイテーションに含まれます。
- リンク付きの言及：「LLMO対策については、〇〇ラボの記事が詳しいです。（リンクあり）」
- リンクのない言及：「最近読んだ〇〇ラボの記事によると、AIOでは画像が重要らしい。」（リンクなし）
- SNSでの言及：X（旧Twitter）で、「〇〇さんのセミナー、すごく勉強になった！」と投稿される。
- ニュースサイトでの言及：プレスリリースがニュースサイトに取り上げられ、会社名が記載される。
従来のSEOが主に「リンク付きの言及」を評価の対象としていたのに対し、AI時代のAIOでは、これら全ての**「リンクなき言及」**も、あなたのブランドの信頼性や権威性を測るための重要なシグナルとして収集・評価されるのです。
なぜサイテーションが「新しい被リンク戦略」なのか？3つの根拠
AIは、なぜ単なるテキストの言及を、これほどまでに重視するのでしょうか。そこには、Googleの進化とAIの特性に根差した、3つの明確な理由があります。
1. 「リンク」から「エンティティ」へ。Googleの理解が深化
Googleはもはや、Webページをリンクの繋がり（リンクグラフ）だけで見ているわけではありません。Web上の人、場所、組織、製品といった「エンティティ（固有の存在）」を認識し、それらの関係性を知識のネットワーク（ナレッジグラフ）として構築しています。サイテーションは、このエンティティが「何者で、どのような評判か」という情報を肉付けし、その権威性を高めるための、最も重要な材料となります。
2. AIが「現実世界での評判」を裏付けとして求めるから
AIは、情報の信頼性を担保するために、常に複数の情報源からの裏付け（コロボレーション）を求めます。特定のサイトが自分で「うちは専門家です」と主張するだけでなく、第三者である多くのサイトや人々が、そのブランドについて自然に言及しているという事実は、AIにとって「これはWeb上だけでなく、現実世界でも評価されている本物の権威だ」と判断するための、何よりの証拠となるのです。
3. 「アンカーテキスト」から「文脈」へ。評価軸のシフト
従来の被リンクでは、リンクが張られたテキスト（アンカーテキスト）が重要でした。しかし、対話型のAIにとっては、それ以上に「どのような文脈で言及されているか」が重要です。「〇〇社のレポートによると」「専門家である〇〇氏はこう語る」といった肯定的な文脈での言及は、ブランドの評価を大きく高めます。
【疑問】音声や動画内の「言及」も評価対象になるのか？
ここで、さらに一歩進んだ疑問が浮かびます。「YouTubeの動画内で、ある専門家が『〇〇社のツールは素晴らしい』と音声で言及した場合、それはサイテーションとしてカウントされるのか？」
結論から言えば、その可能性は極めて高いと考えられます。
Googleは、YouTubeの動画内の音声を自動でテキスト化し、字幕を生成する高度な技術をすでに持っています。AIは、この書き起こされたテキストデータを解析し、「誰が、どのような文脈で、何について語っているか」を正確に把握しています。
つまり、AIにとって、Webページのテキストも、動画内の発言も、等しく「分析可能なテキスト情報」なのです。
これは、今後のAIO戦略において非常に重要な視点を示唆しています。ポッドキャストであなたのブランドが推薦されたり、著名なYouTuberに製品がレビューされたりすることも、今後はテキストでの言及と同様、あるいはそれ以上に強力なサイテーションとして、あなたの権威性を高める要因になり得るのです。
【実践編】信頼されるサイテーションを戦略的に増やす5つの方法
では、質の高いサイテーションを増やすためには、具体的に何をすれば良いのでしょうか。ここでは、明日から取り組める5つの戦略をご紹介します。
1. “引用されるため”の一次情報コンテンツを創る
全ての基本は、他者が思わず「言及したくなる」ような、価値の高いオリジナルコンテンツを作ることです。独自の調査データ、詳細な事例分析、業界の常識に一石を投じるような深い考察など、「この記事を参考にしました」と引用されるに足る、圧倒的な一次情報が、最も自然で質の高いサイテーションを生み出します。
2. プレスリリースを戦略的に配信する
新サービスの開始、独自の調査結果の発表、イベントの開催など、企業としての新しい動きは、プレスリリースとして積極的に外部へ発信しましょう。業界メディアやニュースサイトに取り上げられれば、リンクの有無に関わらず、非常に権威性の高いサイテーションを獲得できます。
3. 業界メディアへの寄稿や取材協力をする
自社サイトで待つだけでなく、積極的に外に出ていきましょう。関連分野のメディアに専門家として記事を寄稿したり、記者からの取材に専門家としてコメントを提供したりすることで、あなたの名前と所属企業が、権威ある文脈の中で言及される機会を創出できます。
4. SNSや専門コミュニティで「その道のプロ」として活動する
X（旧Twitter）やLinkedIn、業界特化のフォーラムなどで、専門家として有益な情報を発信し、ユーザーの質問に丁寧に回答しましょう。「〇〇のことなら、あの人に聞けば間違いない」という評判が生まれれば、それがWeb上での無数のサイテーションに繋がっていきます。
5. オフラインでの活動をオンラインに繋げる
カンファレンスでの登壇、書籍の出版、雑誌への掲載といったオフラインでの活動も、非常に強力な権威性の証明です。これらの活動を自社サイトで報告し、イベントの参加者や読者がオンラインで言及しやすいような仕掛けを作ることで、オフラインの権威性をオンラインのサイテーションへと転換させることができます。
注意：被リンクが完全に無価値になるわけではない
ここで注意したいのは、サイテーションが重要だからといって、従来の被リンクが全く無価値になるわけではない、ということです。クリック可能なハイパーリンクは、ユーザーを直接サイトに誘導するという重要な役割を持ち、今なおGoogleがサイト間の関連性を理解する上で、非常に強力なシグナルの一つです。
正しくは、「権威性を測る指標が、被リンク“だけ”から、リンクなき言及を含むサイテーション全体へと“拡張”された」と理解するのが適切です。
まとめ：これからは「リンクを貰う」から「話題にしてもらう」へ
今回の内容をまとめます。
- サイテーションとは、リンクの有無を問わない、Web上でのブランドや著者名への「言及」全てを指す。
- AIは、このサイテーションを、エンティティの「現実世界での評判」を測る指標として重視する。
- 増やすためには、価値ある情報発信と、積極的な外部への働きかけが不可欠。
これからのAIO戦略で求められる思考は、「どうすればリンクを貰えるか？」から、「どうすれば、私たちの活動が、業界の“話題”になるか？」へとシフトしていきます。
それは、小手先のテクニックではなく、本物の専門性と社会への貢献が問われる、より本質的で、やりがいのある挑戦と言えるでしょう。まずは、あなたの会社が「言及されるに足る価値」は何か、そこから見つめ直してみませんか。